上南家住宅 うえみなみけじゅうたく
員数 | 4棟 |
---|---|
構成要素 | 主屋(しゅおく)、ヒヤ、コナシヤ、長屋門(ながやもん) |
地域 | 海草地域 |
所在地 | 海草郡紀美野町谷667 |
時代 | 江戸中期~後期・昭和中期 |
指定年月日 | 平成31年3月29日登録 |
指定等区分 | 国登録 |
文化財分類 | 有形文化財(建造物) |
所有者 | 個人 |
解説
貴志川(きしがわ)上流の紀美野町の山間に所在する民家である。屋敷は谷集落の西斜面にあり、南北に細長く設けられ、屋敷からは東方への眺望が開ける。上南家は山林や田畑を持ち、農業を営んだほか、かつては旧道を通る旅人の茶屋でもあったという。また、養蚕も主屋内で行ったことがあった。現在は民泊施設として活用されている。主屋は屋敷の中央に東面して建ち、その南側には、長屋門が建つ。主屋の北にはすぐに隣接してコナシヤが建ち、さらに北にヒヤが建つ。
主屋は木造、平屋建、入母屋造、桟瓦葺の建築である。外観は建ちが低く、軒も葺き下ろして低く構えられている。建築年は不明であるが、釿(ちょうな)跡が残る差鴨居や栗の柱、低い内法高さなど古式であり、18世紀前期(江戸時代中期)の建設と考えられる。当初は茅葺(かやぶき)屋根であったが、明治時代後期に大幅に小屋組を改造し、瓦葺きにしたと考えられる。南に入口を設けて土間とし、正面側に2室、背面側に3室を並べる。正面側上手10畳は、上手側に押板形式の床の間と仏壇を構え、竿縁天井は床差(とこざし)とする古式が見られる。正面側2室の正面には縁側を設け、太い腕木を用いて軒を深く出している。
ヒヤは木造、平屋建、入母屋造、桟瓦葺の離れ座敷である。建築年は不明であるが、コナシヤと同時に建てたと伝わる。南西端に入口を構え、東西に8畳と6畳の2室を設け縁側を廻す。東側の8畳が主室の座敷で、北側に床の間、床脇、東側に付書院を設けている。竿縁天井は黒色の塗り縁の竿縁を吹き寄せに設け、戦後期住宅らしい時代性が表れている。全体に檜(ひのき)の良材が用いられた近代和風建築で、東側の眺望を座敷から楽しむ空間構成の工夫が見られる。
コナシヤは木造、平屋建、入母屋造、桟瓦葺、妻入(つまいり)の納屋である。上棟式の幣串から昭和32年(1957年)3月5日に上棟したことが知られる。東側に大きく入口を設け、土間と板床を設ける。栗と檜の柱が混用され、栗は古材であることから前身建物等の部材を用いながら、新材とともに建てたことが窺える。
長屋門は木造、平屋建、東面切妻造、西面入母屋造、桟瓦葺の建築である。建築年は不明であるが、板壁には和釘が使用されており、形式から江戸時代後期の建設と考えられる。元は茅葺きであったものを昭和20年代に瓦葺きに改造した。屋敷地端の崖上に門部屋部分が迫り出して建っていたが、基礎が傷んできたことで、近年取り壊されている。東端の門構えの西側には牛小屋、さらに西に炊事場があり、西端は風呂と物置がある。主屋には炊事する空間がなく、長屋門は主屋と一体となった生活空間であった。
主屋や長屋門は近世に遡る古い建築である一方、ヒヤ、コナシヤは昭和32年に建設された近代和風建築である。外観はどの建物も伝統的な形式を良く保ち、景観上の重要なアクセントとなっている。貴志川山間部農家の伝統的な住まいの構成を良く伝えている。